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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)16088号 判決 1987年12月25日

原告

濱野文雄

ほか三名

被告

佐藤恭夫

ほか二名

主文

一  被告佐藤恭夫及び同柏熊勝典は、各自、原告濱野文雄に対し、三九三九万八七一七円及びこれに対する昭和六〇年九月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告第一火災海上保険相互会社は、原告濱野文雄の被告佐藤恭夫に対する本判決が確定したときは、同原告に対し、三九三九万八七一七円及びこれに対する右判決確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告濱野文雄の被告らに対するその余の請求並びに原告濱野昭子、同濱野真知及び同濱野雄介の被告佐藤恭夫及び同柏熊勝典に対する各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告濱野文雄と被告佐藤恭夫及び同柏熊勝典との間に生じたものはこれを二分し、その一を同原告の、その余を同被告らの各負担とし、原告濱野文雄と被告第一火災海上保険相互会社との間に生じたものはこれを五分し、その二を同原告の、その余を同被告の各負担とし、原告濱野昭子と被告佐藤恭夫及び同柏熊勝典との間に生じたものは同原告の負担とし、原告濱野真知と被告佐藤恭夫及び同柏熊勝典との間に生じたものは同原告の負担とし、原告濱野雄介と被告佐藤恭夫及び同柏熊勝典との間に生じたものは同原告の負担とする。

五  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら(請求の趣旨)

1  被告佐藤恭夫及び同柏熊勝典は、各自、原告濱野文雄に対し、八六一五万六四四二円及びこれに対する昭和六〇年九月一二日から支払い済みまで年五分の割合による金員を、原告濱野昭子に対し、四四〇万円及びこれに対する同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告濱野真知及び同濱野雄介各自に対し、二二〇万円及びこれに対する同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告第一火災海上保険相互会社は、原告濱野文雄の被告佐藤恭夫に対する本判決が確定したときは、同原告に対し、六五四二万五二〇二円及びこれに対する昭和六二年一月二三日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言。

二  被告ら

(被告佐藤恭夫及び同柏熊勝典)

1 原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(被告第一火災海上保険相互会社(以下「被告会社」という))

1 原告濱野文雄の被告会社に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告濱野文雄の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和六〇年九月一二日午後九時五分ころ、千葉県旭市八の二六三番地先道路(以下「本件道路」という)上において、道路端に駐車中の普通貨物自動車(以下「甲車」という)から荷下し作業中の原告濱野文雄(以下「原告文雄」という)が、折から走行してきた被告佐藤恭夫(以下「被告佐藤」という)運転の普通乗用自動車(千葉五八め七九八三、以下「乙車」という)に衝突され、傷害を負つた(以下これを「本件事故」という)。

2  受傷の内容、程度等

原告文雄は、本件事故のため両大腿、下腿骨骨折等の障害を負い、昭和六〇年九月一二日から昭和六一年三月二五日までの六か月余にわたり旭中央病院に入院して左大腿部切断等の治療を受け、以後も同年八月一日に症状固定の診断を受けるまで同病院に通院した。

同原告の後遺障害の内容・程度は、左大腿部切断(自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)施行令二条別表所掲の後遺障害等級(以下「後遺障害等級」という)四級五号に該当)、右膝部関節の著しい機能障害(同一〇級一一号該当)及び右下肢の露出面の手のひら大の醜状(同一四級五号該当)であり、終生改善の見込みはない。以上により、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という)により後遺障害等級併合三級の認定を受けている。

なお、同原告は、前記入院中手術の際輸血後肝炎を併発し、肝機能障害のため通院治療を受けている。

3  責任原因

(一) 被告佐藤及び同柏熊勝典(以下「被告柏熊」という)は、共に乙車を自己のため運行の用に供していた者(保有者は被告柏熊で、同被告から被告佐藤は一時借り受け運転中であつたもの)であるから、自賠法三条により、本件事故により生じた人身損害(以下「本件損害」ということがある)を賠償すべき責任がある。

(二) 被告会社は、被告佐藤の父である訴外佐藤浩巳(以下「浩巳」という)との間で、保険金額を七〇〇〇万円、本件事故発生日を保険期間とする、被告佐藤をも運転者に含む他車運転危険担保特約付の自家用自動車保険契約(以下「本件保険契約」という)を締結し、右保険契約によれば、いわゆる被害者からの直接請求が許される旨定められている。

したがつて、被告会社は、原告文雄に対し、本件保険契約に基づき、被告佐藤の原告文雄に対する本件損害賠償債務が確定したときは、保険金額の範囲内で右賠償額を支払うべき義務がある。

4  損害

(一) 原告文雄 一億一二九一万一二四〇円

(1) 入院治療費及び文書料 二五二万一一八〇円

旭中央病院入院中(一九五日間)に要したもの

(2) 通院治療費及び文書料 四万三〇四〇円

昭和六一年三月二六日から同年九月三〇日までの旭中央病院に要した治療費のうち国民健康保険による自己負担分及び文書料

(3) 付添看護料 九一万二四一三円

入院期間中昭和六〇年九月一二日から昭和六一年一月一〇日までのうち一一〇日間付添看護を要し、職業付添人に支払つた付添料

(4) 近親者看護費 三七万円

昭和六一年一月一一日から同年三月二五日までの七四日間、原告濱野昭子(以下「原告昭子」という)、同濱野真知(以下「原告真知」という)及び同濱野雄介(以下「原告雄介」という)の付添看護を受けた。原告文雄の症状に照らし、右近親者の付添看護は必要、相当なものであり、その額は一日当たり五〇〇〇円が相当である。

(5) 入院雑費 一九万五〇〇〇円

一日一〇〇〇円として一九五日分

(6) 自宅改造費 二一七万四八一〇円

前記後遺障害のため日常生活上自宅の風呂、トイレ等最小限の改造を行わざるを得ず、そのために要した費用である。

(7) 休業損害 四六〇万〇四四四円

原告文雄は、本件事故当時四五歳(昭和一五年二月生)であり、会社勤めを辞した後、昭和五七年から千葉県旭市に店舗を構え、「インテリアくらし木」(以下「くらし木」という)の商号で内装工事業を営んでいたところ、業績は年々上昇しており、税務申告においては大幅な過少申告をしていたが、実際の収入は年額七〇〇万円以上を下ることはなかつたものである。しかし、右実際の収入額を具体的に確定することができないので、訴訟の迅速化を考慮し、右実収入を下回ることが明らかな昭和六〇年度賃金センサス(男子労働者企業規模計、学歴計四五歳から四九歳、以下「賃金センサス」という)による年収額五三七万七九〇〇円を損害算定の基礎とする。

ところで、同原告は、本件事故のため昭和六〇年九月一二日から症状固定日である昭和六一年八月一日までの三二四日間くらし木の休業を余儀なくされ、右賃金センサスの年収の範囲内で算定した四六〇万〇四四四円(518万2600円×324/365=460万0444円)の損害を被つた。

(8) 後遺障害逸失利益 七三〇九万四三五三円

原告文雄は、前記後遺障害により労働能力を一〇〇パーセント喪失した。そこで、年収額五三七万七九〇〇円、労働可能年数を症状固定時から六七歳までの二一年間とし、中間利息控除につき新ホフマン方式を採用して得べかりし利益の現価を算定すれば次式のとおり七五八七万三〇二六円となるところ、本訴においてはその一部である七三〇九万四三五三円を請求する。

537万7900円×1×14.1083≒7587万3026円

(9) 慰藉料 二〇〇〇万円

原告文雄の受傷の内容、入通院の期間、この間の治療の経緯のほか、輸血後肝炎の併発などの事情も考慮すると、入通院慰藉料は三〇〇万円を下るものではない。

また、後遺障害の内容、程度(後遺障害等級併合三級)、右足については再手術を必要としていること、くらし木の経営が軌道に乗り、一層の拡大を目差していた事業が挫折のやむなきに至つたこと、更には、被告らの不誠実極まりない交渉態度のため示談が不成立となり、本訴提起後も和解を拒否する等解決が不当に長期化したこと等の事情を考慮すれば、同原告の後遺障害慰藉料は一七〇〇万円を下るものではあり得ない。

(10) 弁護士費用 九〇〇万円

(11) 損害の填補 二六七五万四七九八円

被告佐藤から二〇〇万円、被告会社から五七七万四七九八円及び自賠責保険から一八九八万円の各支払を受けたので、これを(1)ないし(10)の損害合計に充当すると残存損害額は八六一五万六四四二円となる。

(二) 原告昭子 四四〇万円

(1) 慰藉料 四〇〇万円

原告昭子は、同文雄の妻であり、本件事故により将来にわたり同原告が死亡した場合にも比肩すべき精神的苦痛を被るものであり、これに対する慰藉料は四〇〇万円を下らない。

(2) 弁護士費用 四〇万円

(三) 原告真知、同雄介 各二二〇万円

(1) 慰藉料 各二〇〇万円

右原告らは原告文雄の子であるところ、同原告の受傷、後遺障害により同原告の死亡にも比肩すべき精神的苦痛を被つた。その金銭評価をすれば各自につき二〇〇万円を下らない。

(2) 弁護士費用 各二〇万円

5  よつて、原告らは、被告らに対し、請求の趣旨記載の各金員の支払を求める。なお、原告文雄の被告会社に対する請求のうち、遅延損害金起算日は本訴状送達の日の翌日であり、その利率は商事法定利率年六分に従つたものである。

二  被告らの認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、原告文雄の受傷の内容、入院、通院期間、左大腿部を切断し、右膝関節に機能障害を残し、後遺障害等級が併合三級の認定であること、輸血後肝炎に羅患したことは認めるが、その余は争う。症状固定時期は昭和六一年三月一五日ころである。

3  同3については、被告らは各自の責任を認める。

4  同4は、(一)(原告文雄分)につき、(1)(入院治療費等)は認める、(2)(通院治療費等)は不知、(3)(付添看護費)は不知、(4)(近親看護費)は一日につき三二〇〇円とするのが相当であり、また、症状固定は昭和六一年三月一五日であつて、その後の付添費は本件事故との間に相当因果関係がない。(5)(入院雑費)は認める。(6)(自宅改造費)は争う。昭和六一年一月二九日、原告文雄と被告佐藤との間で自宅改造費につき一〇八万七四〇五円とする合意が成立し、同被告は右合意に基づき右金員を既に支払ずみである。(7)(休業損害)は、争う。休業期間は昭和六〇年九月一二日から昭和六一年三月一五日までの一八五日とすべきであり、その間の損害額は、確定申告による昭和五七年度から昭和五九年度までの三か年の平均年間所得一八二万一二三〇円を基礎とせざるを得ず、これによれば九二万三〇九〇円である。(8)(逸失利益)は争う。原告文雄の後遺障害の程度は六七歳まで通じて労働能力喪失六〇パーセント(後遺障害等級四級と一二級の併合であるからその中間値を採るのが、既にくらし木を再開している実態にも即したものというべきである)とすべきであり、年収についても賃金センサスにまで達しているとはいえず、確定申告に従つて判断されるべきである。(9)(慰藉料)は争う。(10)(弁護士費用)は不知。(11)(損害の填補)は認めるが、損害の填補額は後記のとおり原告文雄の自認額にとどまらない。

(二)及び(三)のその余の原告らの損害はすべて否認する。

5  5の主張は争う。

三  被告らの主張

1  原告文雄の損害の填補

被告佐藤は、原告文雄に対し、その自認にかかる二〇〇万円のほか、(一)従業員の給与補償名下に三〇万円、(二)入院経費名下に都合三回にわたり合計四九万一二一三円、(三)タクシー代四三九〇円の合計二七九万五六〇三円である。

2  過失相殺

本件事故は、原告文雄、同昭子の過失も競合して発生したものである。すなわち、乙車は、駐車禁止区域である本件道路左端に尾燈もつけずに駐車していた(道路交通法(以下「道交法」という)五二条、同法施行令一八条二項違反)原告昭子運転の軽四輪乗用自動車(以下「丙車」という)の後部右端に衝突した後、右斜め前方に逸走し、本件道路反対側に原告文雄が違法に右側駐車をした甲車(道交法四七条一項違反)の後部に衝突したところ、偶々甲車後部の路上に立ち荷降し作業をしていた原告文雄が甲、乙車に狭まれ、受傷したというものである。

このように、原告昭子の違法駐車ないし尾燈不点燈の事実がなければ、夜間十分な街路燈のない本件道路にあつても被告佐藤は容易に丙車の存在に気付いたであろうし、また、原告文雄が法規に従い道路左端に駐車して荷降しをしていれば、乙車の衝突に捲き込まれることもなかつたのである。

そして、右原告両名は、夫婦で右荷降し作業にきていたものであり、原告昭子の過失も同文雄の過失と同視されるべきである。したがつて、原告文雄の損害算定に当たつては、右過失を考慮の上しかるべき減額がされるべきである。

四  被告らの主張に対する認否

1  1の支払金額は認める。しかし、そのうち(一)、(三)はそもそも原告が損害として請求していないものであり、また(二)は見舞金の趣旨で支払われたものであつて、いずれも本訴において控除されるべきものではない。

2  2の過失相殺の主張はすべて争う。仮に、被告ら主張の道交法規違反があつたとしても、原告昭子の過失を同文雄の損害算定に当たつて考慮すべき理由はなく、また、甲車についても運転者は訴外岩井幹夫(以下「岩井」という)であつて、その駐車態様の責任は同訴外人にあり、同原告にはかかわりのないことである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実及び同3(責任原因)はそれぞれの当事者間に争いがなく、被告佐藤及び同柏熊は、各自、自賠法三条に基づき本件損害を賠償すべき責任があり、被告会社は、本件保険契約に基づき、原告文雄の被告佐藤に対する本訴請求に係る本判決の確定を条件として、原告文雄に対し保険金額の範囲内でその損害を支払うべき責任があるというべきである。

二  次に、原告文雄の治療の経過、後遺障害の内容・程度等について判断する。

原告文雄が本件事故のため昭和六〇年九月一二日から昭和六一年三月二五日までの一九五日間旭中央病院に入院し、以後も同年八月一日まで通院治療を受けたこと、左大腿部切断及び右膝部関節の機能障害、輸血後肝炎併発の後遺障害を被つたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に成立に争いのない甲二号証、三号証(原本の存在とも)、乙一号証、原告濱野文雄及び同濱野昭子の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告文雄の通院期間は昭和六一年三月二六日から同年八月一日までの一二九日間中五〇日であること、症状固定日は昭和六一年八月一日であること、左大腿部切断箇所以下は義足をあて、自力による歩行が可能であること(なお、棘状軟骨ができるため、将来にわたり手術を繰り返す必要がある)、右膝には伸展〇度、屈曲九五度(自、他動ともに)の可動域制限があり、大幅な改善は見込めないこと、本件事故による手術の際に輸血後肝炎を併発し、退院後二か月くらいはリハビリテーシヨンも受けられないほどであつたが、昭和六二年一〇月九日当時には無理をしなければ日常生活に支障はなく、通常の就労も可能な程に回復し、将来一層の改善が見込まれることの各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

三  進んで損害について判断する。

1  原告文雄について

(一)  入院治療費及び文書料 二五二万一一八〇円

原告文雄が頭書の費用を要したことは当事者間に争いがない。

(二)  通院治療費及び文書料 四万三〇四〇円

原本の存在、成立ともに争いのない甲四号証の一ないし五によれば、原告文雄が通院治療費及び文書料として四万三〇四〇円を要し、右相当の損害を被つたことが認められ、他にこの認定に反する証拠はない。

(三)  付添看護料 九一万二四一三円

原告文雄の受傷の内容、入院治療期間に成立に争いのない甲六号証及び原告濱野昭子本人尋問の結果によれば、同原告が九一万二四一三円の付添看護料相当の損害を被つたことが認められ、他にこの認定に反する証拠はない。

(四)  近親者看護料 二三万六八〇〇円

原告文雄の入院期間、受傷の内容に成立に争いのない甲六号証及び原告濱野昭子本人尋問の結果によれば、原告文雄は昭和六一年一月一一日から退院までの七四日間、同昭子ら近親者の付添を受けたことがうかがわれるところ、受傷の内容に照らし、なお付添の必要性ないし利便は推認されるものの、その程度及び付添看護の内容が明らかでなく、右に要した費用は一日三二〇〇円の限度で合計二三万六八〇〇円と認めるのが相当であり、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(五)  入院雑費 一五万六〇〇〇円

原告文雄は、前記入院期間中諸雑費の支出を余儀なくされ、右相当額の損害を被つたことが経験則上推認されるところ、右額は、入院期間一九五日を通じ、入院期間が長期にわたつていること及び入院諸雑費の性質に徴し、一日八〇〇円として合計一五万六〇〇〇円と認めるのが相当である。

(六)  自宅改造費 二一七万四八一〇円

原告濱野文雄本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲五号証によれば、原告文雄は本件事故による後遺障害のため自宅の風呂、トイレ等の改造を余儀なくされ、右費用として二一七万四八一〇円を支出し、右相当の損害を被つたことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、被告らは右につき被告ら負担の損害額を一〇八万七四〇五円とする合意があつた旨主張し、前掲甲六号証中これを裏づけるかの記載があるが、右のみをもつては最終的に被告らの前記自宅改造費負担額が被告ら主張の限度にとどまるものであることを認めるには足りず、結局、右全額につき本件事故による被告らの負担すべき損害といわざるを得ず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(七)  休業損害 三八一万六〇〇〇円

原告文雄は、休業損害として四六〇万〇四四四円を計上し、その算定根拠として賃金センサスによる平均年収を主張するので、判断する。

原告文雄のごとき個人事業主の休業損害は、休業により現実に生じた所得(得べかりし収入から経費を控除したもの)の減少をいうのであるから、右所得につき具体的主張、立証がない本件のような場合において、賃金センサスによる休業損害の推定が許されるためには、少なくとも休業のため賃金センサスを超える減収を現実に生じたことの立証を要するというべきところ、同原告の前記受傷内容、後遺障害の内容・程度、症状固定日(昭和六一年八月一日)、に原告濱野文雄及び同濱野昭子の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告文雄は本件事故の日から昭和六一年八月一日までの三二四日間休業を余儀なくされ、この間、本件事故当時同原告がくらし木の営業により得ていた収入を全く得ることができなかつたこと、くらし木は、昭和五七年五月ころ、千葉県旭市に同原告が店舗を構えて始めたカーテン、カーペツト、床貼り、壁貼り等室内装飾の施工を業とするもので、営業から設計、施工など全般にわたり同原告が数名の従業員ないしパートを雇つてこれに当たり、妻である原告昭子が店舗における直接、間接(電話)の客の応対事務及び経理関係事務を担当する形の営業形態であつたこと、くらし木の業務の性質上くらし木の営業は原告文雄の稼働を欠いては維持が困難なものであつたことの事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで、本件事故当時のくらし木の所得が賃金センサスを超えるものであつたかどうかであるが、原告濱野文雄及び同濱野昭子の各本人尋問の結果中には右を肯定する供述部分があり、弁論の全趣旨により成立を認める甲八ないし二三号証(預貯金通帳等)も右推認の一助となるかのごとくであるが、右は、経費を的確に把握し得るに足りる客観的資料がない上、何よりも原告文雄のごとく青色申告事業主の所得証明資料として最も信頼すべき確定申告書等の所得税申告書類(原本の存在、成立共に争いのない乙五号証の一ないし三)による所得額(本件事故前三か年の平均申告所得は二〇〇万円に達しない)に照らし、にわかに措信し難いものであつて、結局、右申告を上回る所得は推認できるものの、それが確定申告を上回ることにつき通常人を納得させるに足りる客観的資料はないといわざるを得ない。

そうであれば、右各証拠のほか、くらし木の前記営業形態に照らし、くらし木の営業収益が原告文雄一人の稼働によるものとは断定できないことなどを総合考慮の上、賃金センサスの八割に当たる四三〇万円をもつて同原告の本件事故当時の年間所得と認めるのが相当というべきである。

右に基づき、同原告の休業損害を算定すれば、次式のとおり三八一万六〇〇〇円(千円未満切捨)となる。

430万円×324/365≒381万6000円

(八)  後遺障害逸失利益 四六八六万一〇〇〇円

原告文雄の後遺障害の内容・程度、現在就業に至つていること(ただし、事業規模は極端に縮少し、いまだ十分な利益を見込めるような状態にまでは至つていない)などを考慮すると、同原告は、本件事故のため、症状固定後満六七歳までの二一年間を通して八五パーセントの得べかりし利益を失つたものと認めるのが相当というべきところ、前記(七)の年間所得四三〇万円を基に、中間利息控除につきライプニツツ方式を採用して、右の間の逸失利益による損害の症状固定時における現価を算定すると、次式のとおり四六八六万一〇〇〇円(千円未満切捨)となる。

430万円×0.85×12.8211≒4686万1000円

(九)  慰藉料 一六〇〇万円

本件事故の態様、被告佐藤の過失の内容(後記認定のとおり)、原告文雄の受傷の内容、入通院の経緯、後遺障害の内容・程度、事業も軌道に乗り出した矢先に、身体に重度の障害を抱え、経済的、精神的に一家の柱としての責任を果たせなくなつた同原告の心情、被告佐藤の不誠実な態度、本件審理の経緯(なお、同原告は、本件が示談ないし和解による早期の解決をみなかつたことにつき被告らを非難するが、本件は被告らが損害額を争うのも無理からぬ事案であり、被告らのみを一方的に非難することは妥当ではない。和解の席においても、被告ら代理人は、同原告の被害結果の重大性にかんがみ、所得の不明確さにもかかわらず、より高額な和解金額を算出すべく努力を重ねていたものであり、和解不成立の背景には、右の間の事情を無視した原告ら代理人の不用意な発言にも一因がある)、その他本件審理に顕れた一切の事情をしんしやくし、同原告が本件事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料額は、一六〇〇万円と認めるのが相当である。

(一〇)  過失相殺 一割

被告らの過失相殺の主張につき判断する。

成立に争いのない甲一号証、乙九号証の一ないし三四、原告濱野文雄、同濱野昭子の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告らの主張2の一、二段の事実のほか、本件道路は車道幅員六・二メートルで片側一車線であること、本件道路は夜間十分な明るさを保てるだけの街路燈設備はなかつたこと、被告佐藤は運転経験が未熟であるにもかかわらず、照明不十分な道路の夜間走行における配慮に欠け、速度の出し過ぎ(指定制限速度時速四〇キロメートルのところを時速五〇キロメートルで走行)と前方不注視の過失により丙車の発見が遅れ本件事故を発生させたものであること、甲車、丙車の駐車の態様ないし状態を含め、本件事故時の荷降し作業の全般にわたり、原告文雄が同昭子及び甲車の運転者である訴外岩井幹夫(当時免許取消処分を受け無免許)を指揮、監督し、作業中の安全にも配慮すべき立場にあつたというべきであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、本件事故が被告佐藤の過失によることは明らかであるが、原告文雄においても右作業に当たり通行車両との関係で安全につき配慮に欠けるところがあり、これが本件事故発生の一因となつていることを否定できず、同原告にも一割の過失相殺を行うのが損害の公平な分担の理念に適い、相当というべきである。すると、同原告の損害額は六五四四万九一一八円(一円未満切捨)となる。

(一一)  損害の填補 二七五五万〇四〇一円

原告文雄が自賠責保険、被告佐藤及び被告会社から合計二七五五万〇四〇一円の支払を受けたことは当事者間に争いがないところ、右はすべて損害の填補と認めるのが相当であるから、同原告の残存損害額は三七八九万八七一七円となる。

(一二)  弁護士費用 一五〇万円

本件事案の難易度、認容額、原告ら代理人の本訴追行の経緯その他諸般の事情を考慮し、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は一五〇万円と認めるのが相当である。

よつて、原告文雄の本件事故による残存損害総額は三九三九万八七一七円となる。

2  原告昭子、同真知、同雄介について

右原告ら三名は、原告文雄の妻、子として同原告の受傷につき固有の慰藉料を請求するがかかる親族固有の慰藉料請求は、右受傷等が生命を害された場合にも比肩すべき、又は右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたときに限り例外的に許されるものと解すべきところ、同原告の受傷及び後遺障害の内容・程度は重大ではあるが、未だ右に固有の慰藉料を請求し得べきものとは認め難いから、右各請求はいずれも理由がなく、失当といわなければならない。

四  よつて、原告らの本訴請求は、原告文雄において被告佐藤及び同柏熊各自に対し、三九三九万八七一七円及びこれに対する本件事故の日である昭和六〇年九月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員を、被告会社に対し、同文雄の被告佐藤に対する本判決の確定を条件として三九三九万八七一七円及び右確定の日の翌日(被告会社の右債務は期限の定めのないものであるところ、債務額確定前である本訴状送達の日の翌日を履行期とする同原告の主張は理由がなく、また、被告会社は右履行期につき特段の主張をしないので、右債務額確定の日の翌日を右履行期と認めることとする)から支払ずみまで民法所定年五分(同原告は商事法定利率年六分を主張するが、被告会社に対する同原告の直接請求権は、同原告が被告佐藤から被つた損害の填補請求権にほかならず、同被告に請求し得る以上のものを担保するものではなく、また、同原告は本件保険契約の契約当事者でもないのであるから、右主張は理由がなく採用の限りではない)の支払を求める限度で認容するが、同原告のその余の請求並びに原告昭子、同真知及び同雄介の各請求はいずれも理由がなく失当であるから棄却し、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を(主文第二項に対する仮執行宣言はその必要がないものと認め却下する)各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤村啓)

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